東谷釣行…6

 

この時は同行者あり

岩壁の水平道

切り立った岩山の上部に、岩盤を削って造った道がある。
水平道とは言うが、曲り道を登って回り込み、その削られた道
を歩いた。写真の真ん中より少し上の黄色い壁が凹んでいる
が、それが水平道である。

 

 

 ある時、この「東谷」に1人で釣行する経緯と計画を、毛バリ釣り
の数人の仲間の
会合で話したところ意外にも、その中のKちゃんが
一緒に行くと言い出した。私より
一回り大柄で10歳程若く、自分より
更に毛バリ釣りにのめり込んでいた。

 

彼は、水泳はマスター級だと言っていた。自称マスター級の彼の言葉は、
渡渉に
あまり自信のない自分にとっては心強い同行者でもあり、渡りに
舟で、一人で行く
より話し相手として二人の方が楽しいからと、一緒に
行くことにした。

 

あとで判った事だが、彼の目的は「東沢」などはどうでもよくて、
「黒部の下ノ廊下で
イワナを釣る」 事だったらしい。

 

「東沢のイワナを確認する」 という一つの目的を目指して、一緒に
遡行してくれる心
強い同行者を得て内心喜んでいたのだが、お互いに
別の目あてで便乗しただけの
同道だった。

 

 


 

 

 釣行の日程は、8月13・14・15日のお盆休みの12日の夜出発で、
13日・
14日キャンプ2泊、15日に帰路に就くという計画を企てた。
いよいよ準備万端
整えての実行である。

 

黒部川下流の宇奈月駅から欅平までは黒部峡谷鉄道が走っている。宇奈月
駅前は大きな駐車場になっていた。

 

彼と私は、明日朝一番のトロッコ鉄道の発車までの間、その駅前の駐車場に
テントを張り、仮眠することにした。乗車までの
時間待ちである。

 

折しも8月夏の観光シーズンである。大きな荷物もあり初めての乗車という
こともあって、どんな混雑か判らないため用意周到、埼玉から銀行振込で
乗車の予約
をとっておいた。

 

もし、満員で乗り損なえば、道程の長い一本道でやり直しは効かない。
まして、一年に一度だけの機会である。念には念をという事だった。

 

明日の事を考え簡単に酒を酌み交わし、早々と寝袋にもぐり込んだ。

 

 

黒部川下ノ廊下には、左岸に黒部ダムから欅平まで、およそ高さ200m
の日電歩道が平行している。水平道と呼ばれているこの道を歩き、途中の
阿曽原小屋
でキャンプ1泊、翌日に「東谷」を目指す計画である。

 

この日電歩道と同じように、黒部川中流はダム発電所の保守用らしい関電の
トンネルが通じているが一般者は利用できない。聞くところによると、我々
が徒歩で何
時間も掛かる道程を僅かな時間で通過できるそうだ。ただ、トン
ネル内は40℃以
上の高温になっているらしい。

 

思うに、関電の関係者と懇ろ(ねんごろ)になってこのトンネルを使えたと
しても、暗い隧道を周りの景色も見ないで利用したくはな い。一歩一歩自然
を満喫しな
がら行くアプローチ、辛く苦しい行程と重なるところに妙味が有る。

 

一度位は話の種にトンネル利用を経験してみるのは良いとしても小細工を
してまで利用したいとは思はない。確か、何時間も掛かる行程をわずか
一時間足らずで
到達できるようだ。

 

以前、何かの本で読んだことがあるが、或る人は、黒部渓谷をこのトンネル
を利用して行き、黒部下ノ廊下を記事にしていた。それは、途中の行程を省
いたも
のであった。

 

大げさに例えると、可能、不可能は別にして「エベレスト登山」に、ヘリ
コプターで頂上まで直接登頂して、エベレスト征服と言っているようなもの
だと思う。

 

また、ベースキャンプから徒歩で登頂するにしても、その為には、シェルパー
などの多くの
人々の手助けがあってはじめて達成される。その意味で単独
登頂は、特別な価値
があるのではないかと思えてならない。

 

話は戻るが、この計画にキャンプでなく阿曽原小屋に宿泊も考えた。欅平
から
曽原小屋まで何時間掛かるか判らないから途中でバテて野営する事も
念頭に置く
必要があった。

 

早朝、夕暮れお構いなしの釣りだから、好きな時間に出入り自由のテント泊は
我々の常用になっていた。

 

今回も、寝たいときに寝て食べたい時に食べる気ままに過ごせるテント泊に
決めていた。

 

 

 

 

 




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