東谷釣行…11

 

子熊が逃げた!「東谷単独釣行2年目」

 

 

雪渓の道 1

この雪渓の上を歩いた。非常に判りづらいが、中央の前方の
山際に左斜めに細い丸太が一本見えると思う。雪渓の向こう
側から梯子10m位を登り、その丸太の辺りに出て、雪渓を
手前に道なき道を歩いて来たのである。

 

 

途中、沢の水を飲みながら歩き続けた。距離としては黒四ダムから
東谷までの区間の三分の一ぐらいだ。

 

位置としては、右岸の内蔵助谷を経て左岸新越沢の先の黒部別山谷
の手前である。さらに、ここから白竜峡を通り昨年行った十字峡まで、
あと2キロ程だった。

 

荷が重い。ここまで休み休み歩いてきた。 水平道とは言うが、小さな
アップダウンが続く。炎天下で暑く汗ビッショリ、相当体力を消耗して
しまった。

 

雪渓に作られている梯子を用心しながら攀じ登り、雪渓の上を歩く。
大きな雪渓の端に作られている梯子の降り口を見定めて、また、梯子
を伝い降りる。何個所か、そんな場所があった。

 

 

雪渓の道 2

雪渓を歩いて左手から右の梯子を伝い、手前の水平道に出る。雪渓の上だから
ハッキリした道は無い。写真では前後の感じが掴めない。
記憶で書いているので、
もしかすると逆の道筋だったかもしれない。
右側の岩壁の下に右にカーブした道が
見えるが、これが水平道である。

 

 

梯子を登り雪渓に出て、辺りを見回して降り口を探す。方向と勘で水平道
の有り場所を見つける。「水平道をこう歩いて来たんだから道の流れとして
大体あの方角だろう?」である。

 

登山の先行者は居ない。辺り前後に人でも居ればおおよその見当も付く
だろうが、自分独りで探さなければならない。

 

なんとか降り口を見つけることができた。道無き道を行くのは本当に疲れる。

 

水平道の手頃な所で休むことにした。左手は林、右手は数10メートル下
に黒部川、ところどころ雪に覆われて、雪の下をトンネル状になって流れ
ていた。この辺りは、欅平の水平道と違って川まで200mもの高さは無い。

 

突然!林の中を子熊が逃げて行った。50センチ程の熊だった。以前から
渓流釣りをやっているが、こんな近くで熊を見たことはない。人の話だが、
「子熊の傍には親熊が居るから危険」だそうだ。

 

人が歩く登山道で不意に熊と遭遇することは考えられない。熊も人間を
一番警戒している筈である。だから、熊は人間より早く気付いて距離を
置くと思う。

 

何事も無かったから、こんな呑気な事を言っていられるが、もし、親熊に
出会ったら只では済まないし、その時はあきらめるしか仕方ない。

 

唐辛子は持っていないし、手頃な丸太棒の一本でも有れば最大限
抵抗してみるが、細い釣竿では太刀打ちできない。聞くところによると、
熊は動きは遅いように思えるが実際、敵に立ち向かうときは犬のように
敏捷な動きをするそうだ。

 

熊の眼を睨みつけて運に任せるのが精一杯の対処法?らしい。
四つに組んで足払いは有効のように思えるが、その余裕はなさそう
である。四つに組む前に鋭いフックを食らって顔が何処かに飛んで
いるに違いない。

 

「十字峡まで行ければ、その向こうは昨年歩いた道だから何とかなる
だろう。」そして、目指す「東谷」に単独で入渓できる。あの2連の滝を
越えて待望の「東谷」のイワナを確かめることができるのだ。

 

「がんばれ!」自分を叱咤激励しながら黙々と歩いた。

 



 

 

体力不足と気力不足

 

わずかな上り下りでも荷が重くて身体にこたえる。少し歩いては休み、また、
歩いては休みの連続で、真夏の直射日光を浴びて汗が吹き出してくる。
木陰の沢筋でしばらく休むことにした。

 

ふと気が付くと、水平道の行く手から二人連れが歩いて来るのが見えた。
軽装の男女、なんでこんな所を歩いているのか不思議に思えた。近づくと
男は普通の知らない人だったが女の人は何処かで見たような感じの
人だった。無言で通り過ぎて行った。

 

普通は「こんにちは」とかなんとか声を掛けるものだが、何か事情があるの
かも知れない。こっちも、この時は話し掛ける気の余裕はなかった。女の人
は一見綺麗な感じの人だった。

 

また、歩き出したが体力の消耗が激しく、この調子では行けても「十字峡」
までがやっとで、とても目的の「東谷」までは大変だと思った。「白竜峡」の
辺りで引き返そうと考えていた。

 

ここまで来て残念だが仕方ない。またの機会、来年にまた来ようと決めて
引き返す事にした。前にも書いたが、決めて実行するのも速いが、あきらめ
て次に期待をかけるのは、もっと速い。人並みの根性が無いらしい。

 

帰り道に、先程すれ違った二人連れ一方の女の人が誰だったのか?
そんな事を考えながら歩いていた。

 

だいたい、一人で山道を歩いていると訳もなくいろいろな事を考えている
ものである。無心でただひたすら目的に向かっているように見えるかもしれ
ないが、余計なことに気を使っているから、より以上にくたびれるようだ。

 

「思い出した!」

 

あの女の人は確か、時代劇の女優で、名は知らないが割と綺麗な俳優
だった事を思い出したのである。人違いかも知れないが、あの二人は
時間的に「十字峡」まで行っての帰りのように思えた。

 

その時は、「女優とマネイジャーの道ならぬ山行き」そんな事を想像し
ながら歩いたのを覚えている。断っておくが、その女優が特別タイプ
だった訳ではない。
 今考えると辻褄が合わない。可笑しい。なんで、そのシチュエーションが
「十字峡」なのか? 単なる淫らな想像だったようである。

大石の崩れた歩きずらいガレ場を通過した。重い荷を背負っているから
慎重に歩かないと危ない。もう少しで黒四ダム駅だ。

 

今年も、「東谷」まで行けなかった。一年に一度の機会だから、また
来年の
お盆休みに来ることになる。釣行のやり直し、「楽しみの
先延ばし」という
ことになった。

 

 

 


 

 

水平道通行止め!「東谷単独釣行2年目」

 例によって長野・大町市扇沢の黒四ダムトロリーバス駅を目指した。
今年こそ何とかあの2連8mの滝を越して、東谷のイワナを確認したい
と思っていた。
一昨年Kちゃんと二人でアタックしょうとしたが途中で断念し、昨年は
体調不良で、十字峡手前で引き返す破目になってしまった。目的地が通年入渓可能ならば体調を調整しながらマメに挑戦できる
のだが、年一回、しかも遠路埼玉からである。現地の天候と自分の体調を考え併せて、貴重な数日を目標にする
のだから簡単ではない。万全を期さなければならないのであった。
今回は天候も体調も良く絶好のチャンスだった。意気揚々とバスに
乗り込み黒四ダム駅を目指した。ところが、ダム駅に着いて薄暗い
隧道のコンコースを出口まで歩いて行く途中にある警告の看板に
気が付いた。

 

トロリーバスを降りると直ぐに改札が有り、そこから普通はダムの
上部の
観光客が利用する出口へと進むのだが、黒部川下ノ廊下、
要するに
黒四ダムの下流に向かう出口は別にあった。

 

それは昨年気が付いたのだが、昨年は、観光客と一緒にダム上まで
行ってダムの端を降りてダム下放水路に出る遠回りの道をたどったが、
今回は薄暗い構内の通路を、観光客と逆方向に歩いた。

 

すると、「な、なんと!!!!!」、、、、、、。

 

看板の文字に愕然とした。「十字峡方面の水平道は整備遅れの為
通行不可」と書かれていたのである。バスに乗る前に判っていれば、
前もって知っていれば、当然もっと前に引き返した筈だ。

 

手前の看板を見落としたのか、それとも観光客がメインだから特異な
目的の乗客は対象外で広範囲に告知していないのか。(それでも一枚
ぐらいはということで業務上のため止むおえず看板を出して置いたのか。)

 

唯一の水平道が通行できなければ計画は全てパーである。

 

どうしようもなかった。「それではまた次の機会に」という成り行きは、
考える間でもなく、来年という事である。

 

結果として三回目、東谷単独釣行2年目の釣行も失敗に終わった。

 

 

 

 

 

 




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