東谷釣行…5
「欅平」から日電歩道を歩く行程
崩れた水平道
数箇所の梯子と梯子の間には、幅1mにも満たない岩の道が有っ
て、その道の崩れた割れ目に写真のような丸太が補強してある。
私はなんとしても、その「東谷」まで行ってイワナ釣りをして
みたいと思った。今考えると、知らぬが仏とは言え、大した経験
も無いのに恐ろしい事に取り組んでしまったのである。
どんな場所かおおよその見当はついていたが、想像する黒部の長く
険しいアプローチ。現地に到達したとして果して「東谷」を遡行
できるのだろうか?
それで、いろいろと現地の状況・日程・装具やその他について
検討を始めた。
ある山岳文献によると、「関西の本格的な沢登り・ロッククライ
ミングのベテランパーティー数人がアタック難業の末に、遡行して
鹿島ウラ沢から牛首尾根、鹿島槍に至った事や、出合上流100mに
2連の8mの滝があり、さらに、峻険なゴルジュ帯を通過しなければ
ならない事」 等が記されていた。
ところどころ雪渓で途切れている黒部川本流
この計画は当初から1人で行くつもりであった。それだけに大きな
不安と好奇心は、「東谷」を目標に着々と準備を進めるうちに増大
していった。
「果して行けるだろうか?、、、」
考えてみると自分は、S氏から、「東谷」にイワナが棲息していた
事を聞いて、それを確かめてみたくなったのであるから、全川を遡行
出来なくても、例え「東谷」の下流部だけでも入渓できれば目的
達成になる。
最初の難関の2連の8mの滝をなんとかクリアさえすれば東谷本沢を
見ることが出来る。そして、その滝が本流からのイワナの遡上を
遮っているのだから、滝から上の岩魚は正真正銘の「東谷のイワナ」
ということになる。
私は予定通り、更に、より綿密で周到な準備を開始した。
東谷入渓の準備
途中の黒部本流の清冽な流れ、川原の岩は写真の見た目より大きい。
水量も多く、中心の深さは背の届く深さではない。
まず、軽いテント・シュラフ・10mmザイル40m・登攀用具・
食料食器・地図・アタックザック・釣具・渓流シューズ・水に濡れ
ても直ぐ乾く衣類・その他を決め、現地の航空写真まで用意した。
航空写真で上空から出合付近の状態を調べたかったのだが、これは
失敗だった。
今思うと笑い話、拡大鏡で丹念に見てもおおよその見当はついたが、
樹木に遮られて詳細不明だったのである。
それは兎も角、 「東谷」への行き方としては、宇奈月を経て欅平
から水平道を上るのと、黒部川上流の黒四ダムから同じく水平道を
下るという二つの方法が考えられた。
宇奈月から欅平まで行って水平道を歩き阿曽原温泉に泊まって翌日、
「東谷」に行き、帰路は同じ道を戻るとして最低3泊4日の日程を
要する事。
また、もう一つは、黒四ダムまで行き黒部川下ノ廊下を下り、十字峡
を経て仙人ダムの手前の 「東谷」を目指すコースである。この場合は
テント泊で、やはり2~3泊を要して、これも同じ道を戻る事になる。
車の利用でなければ、(黒四ダムから十字峡、S字峡、仙人ダム、
阿曽原温泉、欅平)という下ノ廊下を一括通して同じ道を戻らずに
歩けるのだが、上からか下からかのどちらかを、選択しなければ
ならなかった。
そして、水平道を歩くには8月中旬以降でないと残雪で無理な事、
「東谷」出合に行くために道はあるらしいが地図を見ると、場合に
よっては黒部川本流の左岸から右岸に泳いで渡渉する必要のある事
などを知った。
さて、「東谷」出合、左岸から右岸に渡渉するのは可能だろうか。
なにせ黒部川本流の中流部である。
相当な水量でも何とか渡らなければならない。水泳は出来るが昔の
事で達者ではなく近年泳いでなかったし渓流での泳ぎは初体験の
ようなもので自信がない。
思い立つと止まらない習性は、「身体の為にも良いと」理屈を付け、
水泳ジムに入会して3年通った。また、滝を越えるのに未経験の
ロッククライミングも少しは知っておいた方が良いと考え、栃木県で
初心者を教える催しを見つけて2回参加した。
水泳もロッククライミングのいずれも今更、本格的に覚える必要は
無かったが、自分の身体に幾分でも気合いを入れることで、全然
知らないより僅かでも自信をつけておくために、基本的な技術を
把握できれば良い位の思いつきだった。
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